歯周病は、以前は歯槽膿漏症と言われ、症状として歯茎から出血や排膿があり、歯を支えている骨が溶けてグラグラになり、やがて歯が抜ける病気で高齢になると誰もが罹る病気と言われていました。
従って、1950年代以前は、対症療法が主体で歯茎が腫れれば,切開・排膿、グラグラして噛めなければ抜歯が通常処置でした。
然し、1963年H,L,教授が学生を対象に臨床実験で「ヒトの実験的歯肉炎」を造り、きれいに歯と歯茎を清掃後、2週間、歯を磨かない状況を観察しました。
その結果、歯と歯茎にはプラークが溜り歯茎の腫れ、出血が見られ、歯茎の周りの汚れを顕微鏡で見ると球菌から運動性桿菌や糸状菌へとかわり、2週後ブラッシングを再開すると前述の症状がなくなり、歯茎は正常の状態に戻ったという実験でした。
この様に歯周病は口内の悪玉菌が関与し、歯茎を感染させ、微慢性炎症をおこす「感染症」であることが判明しました。
このような悪玉細菌を除去するために歯と歯茎の汚れを歯ブラシやフロス、歯間ブラシで除去することの重要性が一般の皆様に理解されてきました。歯と歯茎を磨けば、虫歯や歯周病は除去出来るかと言うと磨き方は場所や歯の植立方向で、磨き方は一通りではありません。
プラークはプラークバイオフイルムとも言われ、粘着性が強く、除去しにくい場所が出てきます。
歯科を受診すると、先生や歯科衛生士が歯の磨き方をしつこく指導するのは、そのためです。
歯周病原細菌は口の中だけで悪さをするだけでなく、歯茎から侵入した細菌は微細血管へ入り、糖尿病、誤嚥性肺炎、心筋梗塞、脳血管障害、低体重児症などと連鎖しています。
高齢者のドライマウス(口の渇き)、歯ぎしり、イビキ、顎関節症、口呼吸など機能面の治療も大きく位置付けられてきました。
老後の楽しみの一つとして、食も楽しく味わい、十分噛むことが(30回)脳幹の視床下部を刺激し、セロトニン分泌も認知症ケアに大きな役割を果たしています。
歯科と言うと歯の治療、歯の詰め物、被せもの、入れ歯等のみを考えている方が多いようですが、機能検査(歯周病菌検査、咬合力検査、舌機能検査等)治療へ変化してきています。
基本的に口は消化器の入口で出口の肛門までつながる外から内側にある唯一の管です。
又、呼吸も鼻腔から行われていますが脊椎動物の発生をみると食と呼吸は同一場所に存在し、声帯も気道の一部で関連しています。
食ができず経鼻栄養チューブ、胃瘻造成術、気道への不備による誤嚥性肺炎、VAP(人工呼吸器装着患者)等の口腔ケアは歯科界に課せられた大きな問題でもあります。皆さんと一緒に口の大切さ、必要性を見直して頂きたいのがこの講演の趣旨です。